とむやんの氣まぐれ雑想記

〈探幸王〉を目指して、さまざまな想いを綴ります☆

猿と蟹と、トリクルダウン


ここ最近、【トリクルダウン】について考えている。

きっかけは、Twitterでさかいとしゆきさんという方の投稿を見たこと。
【トリクルダウン】という言葉を初めて使ったのは、ユーモア作家のウィル・ロジャース、だそう。
このことは、Wikipediaの「トリクルダウン理論」にも出ている。

ところが、真逆の意味合いで紹介された言葉なんだとか。
富裕層をさらに裕福にしても「滴り落ちません」よ、「トリクルダウンしませんよ」、と。
むしろ、困窮層に渡しなさい、すぐに最上部に届いてしまうけれど、少なくとも貧困層の手を通っていくから、と語っていたと。

これはすごく腑に落ちた。
以前から、【トリクルダウン】なんて荒唐無稽、と思ってた。

ちょうどちょっと前に、ふと氣付いたことがあって。
滴り落ちる…?あれ?これって、何だかどこかで聞いたことがあるような…。

そうだ、「猿蟹」じゃないか。



ということで、図書館で「猿蟹」ばなしの絵本を探してみた。
思いの外たくさんあったので、4冊に絞って借りてきた。

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(左から)
①『さる と かに』 神沢利子/文 赤羽末吉/絵 BL出版

②『かにむかし』 木下順二/文 清水崑/絵 岩波書店

③『さるかに』 松谷みよ子/文 滝平二郎/絵 岩波書店

④『さるかに』 松谷みよ子/文 長谷川義史/絵 童心社


4冊それぞれ、結構お話が違う点がある。

そもそもまず、タイトルが③と④以外、全部違う。
逆に、「猿蟹合戦」のタイトルのものはなかった。

これは、③の『さるかに』の最後に解説があって。
【江戸時代には、かたき討ち思想が強くなり、赤本にしたてられて「サルカニ」合戦」となってしまいます】ということだそうだ。


お話の違いとしては、まず出だし。
④『さるかに』、蟹がまずにぎりめしをひろう。
すると、猿が「もっといいもん」として、柿の種をみせびらかす。
猿が「とりかえっこするか」ともちかけ、とりかえる。

ぼくがイメージしていたのは、これ。
①『さるとかに』もほぼこの流れ。
③『さるかに』では、蟹は一度断っている。
それをだまして(柿の実ざらんざらんなれば、くいほうだい)とりかえるから、今回の趣旨に一番近いと言える。

ところが、②『かにむかし』では、蟹がはじめから柿の種をひろう。


そして、柿の実がなってからのこと。
蟹は実を取ろうとするが、がしゃがしゃとはいのぼっては落っこち、はいのぼっては落っこち、のぼることができない。
ここは、4冊ともほぼ同じ。

問題はそれを見ていた、猿。
①『さるとかに』②『かにむかし』では、「もいでやろうか」と申し出る。
(とは言っても、返事を待たず木にのぼる)

③と④では、猿は山から駆け下り木にのぼって、真っ赤な実を喰いだす。


一方、逆に4冊ともほとんど変わらない描写がある。
それは、蟹が柿を育てるところ。
蟹は、水をやったり肥しをかけたりしながら、脅す歌を歌う。

実はここ、「猿蟹」ばなしの最初の見せ所のようだ。
あとがきの解説によれば、遠野地方には実際「なり樹攻め」というのがあるんだそう。

トリクルダウンと「猿蟹」を考えたとき、ぼくは蟹を困窮層の側ととらえた。
でも、改めて読んでみると、脅された柿こそがこの国の底辺を象徴しているように思えてきた。



④『さるかに』を、下2人に読んであげたら。
(4冊のうち、この一冊だけ読んだ)
特に末っ子は「このさる、きらい」と憤っていた。

そりゃそうだろう、あまりに身勝手で横暴過ぎる。
猿が投げつけた青い柿で、母蟹がつぶれて死んでしまうのだし。
(それ自体は、不慮の事故っぽくは描かれているが)

改めて読んでみて、今まであまり意識していなかったことに氣付いた。
それは、猿が住んでいるのは囲炉裏のある家、だってこと。

このお話の猿って、実はニンゲンのことなんじゃないか。
この地球上において、もっとも身勝手で横暴で、動物からも器物からも恨みをかっている、かもしれない存在。



今回は【トリクルダウン】のことなので、話を戻すと。

【トリクルダウン】なんて、言葉の出所をたどってみても、「あるわけがない」ことは明らか。

「猿蟹」は話によって、バリエーションは結構さまざまあるのだけど。
結局、猿に好き放題取らせても、絶対蟹には「滴り落ちない」だろう。

それなのに、最近では猿の肩をもつような言説が出てきたりして、驚く。

ネットでは、青い柿投げつけられた!と文句を言うと、「取ってもらったんだからまずは感謝しろ」とか、「じゃあ自分で取ったらどうだ」なんてリプがついたりする。
(もちろん、喩えです)
なんなら、「青い柿もこうしたら活用できますよ」とか。
それ、ライフハックにもならないから。

「エクストリーム擁護」なんて言い方もあるけれど、猿の肩をもつってことは、たぶん何らかの「利害関係」があるんだろう。
もしくは、強いもの大きいものにすぐ擦り寄りたくなる性分なのか。

蟹の仇討ちには、くまんばち、くり、うしのくそ、いしうすが助太刀してくれる。
これもバリエーションがあり、①と②では桃太郎のようにきびだんごをあげている。
また、②では「はぜぼう」も参加する。

お話としては、「仇討ち」をする流れでいいのだけど。
現実では、それより前で止めたいところ。
猿が勝手に木にのぼって柿をとることをやめさせないと、悲劇は繰り返される。


ずる賢い猿たちの言う【トリクルダウン】なんかに、いつまで騙されているつもり?


                    せれんでぃっぽ☆とむやん